名古屋スタジオに新たなディレクター誕生!
デビュー作『戦隊大失格』についてインタビューしました
2024年6月末に1st seasonの放送が終了した『戦隊大失格』。
本作でサブリメイション名古屋スタジオ初の3DCGディレクターとしてデビューした竹内晋作に、制作期間中の裏話や自身のキャリアについてお話を伺いました。自身のキャリアとしても初めての役職、さらに名古屋スタジオメインで動くことも初という挑戦の中、見えてきたものとは。
▷『戦隊大失格』1st seasonの放送お疲れ様でした!
ありがとうございます!
▷いろいろとお話を聞かせていただきたいのですが、改めて自己紹介からお願いします。
今回3DCGディレクターを担当させていただきました、名古屋スタジオ所属の竹内晋作です。入社は2017年なので、今年で8年目になります。『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』から制作に参加させていただきました。
『戦隊大失格』3DCG制作の裏側
▷本作ではどのような部分を担当していたのか教えてください。
3DCGという部分で、レイアウト切りやBGの出力作業、カメラワーク含めてのカット制作、キャラクターアニメーション、エフェクト関連を担当しました。
▷お仕事を受けるにあたって原作を読まれたかと思いますが、いかがでしたか?
タイトルの印象からヒーローとして情けない人たちが成長していく物語なのかなと思いきや、実際は戦闘員の逆襲物語と言いますか、少し黒い部分が見えるヒーローでしたね(笑)。読みながら「アニメ化するならアクションはあっさりしていた方が良いのかな」と思っていたんですが、想像に反してかなり派手になっていました。絵コンテを貰った段階で「こんなに盛り込むんだ!」と感じましたね。
▷たしかに、アクションにかなり力が入っている印象を受けました。本編の中で竹内さんイチオシのカットやシーンはありますか?
2話でレッドキーパーが八岐大蛇という技を出すシーンが印象に残っています。ここはアクション込みでアニメーター側でコンポを組みました。原作だと2コマくらいであっさりと終わっているんですが、アニメだとかなりボリュームのある演出になっていましたね。
炎がメラっとちぎれたり、熱で空間がもわっとするじゃないですか。そのエフェクトを国立スタジオのベテランスタッフとVFX担当の方に仕上げていただき、熱気を感じる空気感や揺らぎが絶妙に表現されており、放送を見てテンションが上がったシーンです。
|第2話 八岐大蛇のシーン
あとは、9話でブルーキーパーが竜宮乙姫という技を出すシーンですね。発生させたシャボン玉の中に魚がいて、これが1つではなくかなりたくさん浮いていまして。撮影さんが処理をしやすいよう別個でレイヤー分けしたところ、素材の数がすごいことになりました(笑)。
▷このシーンはカメラワークもついてましたよね?
そうですね。どんな角度から見ても調整できるようにレイヤーを分けて納品しました。その結果、膨大な素材数になりデータがすごく重くなったんですが、撮影さんに納品したら想像以上に綺麗になって返ってきて驚きました。
▷膨大な素材を出力した甲斐がありましたね!
3Ⅾ側でも盛っていたはずなんですが、こちらもVFX担当の方が魔法使いのように仕上げてくださいました。まるでエレクトリカルパレードのような、キラキラした感じで感動しましたね。
|第9話 竜宮乙姫のシーン
▷本作で初めてディレクターを務められたとのことですが、立場ならではの苦労などあればお聞かせください。
アニメーターやチーフだった頃は「このカット、こういう風に仕上げてみたんですがどうでしょうか?」といった相談をディレクターにする側だったんですが、 今は僕が相談される側になりました。部下に「ちょっと違うかもしれないね」、「これで行ってみようか」というような判断を下す必要がある立場になったというのは大きいです。僕が次に見せる相手は監督や演出さんなので、ディレクターになったことでより一層チェックデータ提出の時に冷や汗をかくようになりましたね(笑)。
▷東京のYostar Picturesさんと名古屋スタジオとではチェックなどのコミュニケーション面が大変そうな印象がありますが…?
いや、それがそこまで苦戦せず進めることができましたね。というのも、元々東京の国立スタジオとリモートでチェックを行ってきたので、相手が変わったというだけで形式としては慣れたものでした。
入社当初はリモートならではの雰囲気の掴みづらさや、スピーカー越しでのちょっとした雑談に参加しにくいなど苦労しましたが(笑)。今はウェブカメラもありますし、僕自身もだいぶ場数を踏んだので、コミュニケーション面で大変だった記憶はないですね。
▷クライアントチェックではどんなコメントをいただきましたか?
ありがたいことにどちらかというと好評なことが多かったかもしれないです。提案した際には「こちらのほうが良いですね」と受け入れていただけることもありましたし、イメージと違う場合には「これはこういう意図なんです」と説明をいただくこともありました。
監督や演出さんの好みを把握して、それを汲み取って落とし込んでいくことで、作品の後半になるにつれ精度が上がってリテイクは減っていく感じでした。
▷演出さんによって様々なんですね。ちなみに、竹内さんがスタッフから提案を受け取る際はどのように対応していましたか?
僕は自分の色をどんどん出して欲しいタイプなので、提案も基本的には受け入れていますね。
ただ、イメージと外れすぎている時は「ちょっと直して欲しい」とお願いすることもあります。ブルーキーパーがすごく大好きなスタッフがいまして、その人にブルーキーパーのカットをお願いしたところ、自分の好みを詰め込みすぎたのか想像よりムチっとして返ってきたので、「もう少し抑えてもらっていいかな?」とリテイクを出しました(笑)。
▷なるほど(笑)。提案内容次第ではカットの繋がりで苦労したり、チーム内での連携が難しかったりする場合もありますよね。
そういった場合は僕の方でまとめていきます。
これまでやってきたプロジェクトと違った部分として、一部セクションは他スタジオのスタッフが担当したものの、今回は初めて名古屋の班がメインで動いていたという点があります。スタッフが同じスタジオにまとまっていたので、隣の席に次のカットを担当している人がいて「これってこうだよね」などスタッフ間で相談する場合もあれば、「ちょっとごめん、〇〇さん」とディレクターである僕が担当者を呼んで直接確認をしたりもしていました。スタッフ同士の年齢も近いので、あまり壁を感じずやりやすかったんじゃないかなと思います。
▷チェックバックはどういう形式だったんですか?
社内チェックは僕がデータを確認した後、テキストを用意して直接本人に口頭で説明しながら伝える形にしていました。
クライアントチェックは映像をお送りして、文面で修正点をいただいたり、追加で参考資料をいただくこともありましたね。初めて一緒にお仕事をする方に提出することもあり、やはり最初はすぐに通らなかったりして、「じゃあどうしたらいいんだろう?」と僕自身もスタッフたちと迷いながら進めていました。
▷そのギャップはどのようになくしていったのか教えてください。
トライアンドエラーを繰り返して、「じゃあ、次はこういう方向性で行ってみよう」「これはダメだったか。こっちならどうだろう。」というように何度も経験を重ねて探っていった感じですね。みんな自分の中でのクオリティラインは持っていたので、方向性が定まってからは早かったなと感じます。
▷さとうけいいち監督のチェックはいかがでしたか?
これが厳しそうに見えて、懇切丁寧に説明をしてくださるんですよ。「ここはね、こういう風にした方がいいよ。なぜこういう風にした方がいいかっていうとね…」と、キャラクターの口パク1つにしても細かく説明してくださる方でした。口頭で伝わりづらければ、ウェブカメラで「今カメラ見えてる?ここはね…」とポーズをとってくださったのでイメージしやすかったですね。
さとうけいいち監督はすごく楽しい方で、打ち合わせがあんな雰囲気で行われるのはすごく新鮮でしたね。初っ端から漫才の始まりみたいな雰囲気で(笑)。リモートなのでカメラ越しではあるんですが、いきなり机の上に座って「今日はこれで打ち合わせをします!」という流れで始まったりして面白かったですね!
▷監督とのやり取りを通して考え方が変わったことはありますか?
めちゃめちゃありますね(笑)。
ひとつエピソードを挙げると、僕はカットの中でカメラのミリ数を変えながらズームイン・ズームアウトみたいなことは、パースが狂うからあんまりやりたくなかったんです。でも、監督から「こうした方が絶対良くなるから!」とアドバイスをいただいて、「こういう技ってやってもいいんだ!」と気付きました。破綻しないやり方みたいなものにも気付いたので、視野が広がったなと思いますね。
▷選択肢として自分の中に確立できたというのは大きな経験ですね!
そうですね。あとは揺れ物に関して、細かい部分ではあるんですが、これまではただ成立していれば良いと思っていたんです。けれど、可愛い女の子が出すヒラヒラとヒーローのマントはやはり別物だなと再認識できました。
▷確かにドラゴンキーパーのマントの揺れは力強い印象を受けました。
僕の中で監督の名言だなと思ったのが、「ヒーローのマントはどれだけ長くしてもいい」という言葉です。デフォルトのドラゴンキーパーのモデルのマントは膝上ぐらいなんですが、それだと決めのカットとしては短くて映えないので「倍ぐらい長くしちゃっていいから」と。そこからはもうしれっとマントを3倍、4倍くらい長くしたりしていました(笑)。
|マントが長くなっているのが分かるシーン
ディレクターになって見えてきた景色
▷入社当初から “ディレクターになりたい” というような希望はあったんですか?
これに関しては、全くそのビジョンは持っていなかったですね。どちらかというと、アニメーターとして見せ場のカットを「この人に任せたい」と言ってもらえるスペシャリストのような立ち位置を目指していました。
…が、次第にディレクターも楽しそうだなと思い始めまして(笑)。
▷そう思うようになったきっかけは何でしたか?
『ドラゴンズドグマ』やNetflixシリーズ『鬼武者』などの自社作品に参加させていただいた時に、CGの方向性を決められる人というのは重責もすごいだろうけれど、やり遂げた達成感はあるんだろうなと思いまして。
あと、欲を言うならなんですが…オープニングに名前が載りたいなと(笑)。
▷確かにディレクタークラスは単独クレジットですよね!
「やったー!」ってなりましたからね、今回。
▷ちなみに、自分から「ディレクターをやってみたい」というような話を会社にしたことは…?
いや、これが実はなかったんです。『鬼武者』の時にチーフアニメーターをやらせていただいて、そこからしばらくはチーフをやりたいなと思っていた矢先、もういきなりディレクターです!という感じだったので、心の整理がつかないまま(笑)。
▷いきなりディレクターに抜擢されたことで、周りのスタッフから距離を置かれてしまったりはしませんでしたか?
これは全くないですね!『戦隊大失格』は3ds Maxで制作を行っているのですが、僕は使用経験があまりないツールだったので、「ごめん、別ツールで出来るこの機能ってどうやったら再現できる?」と立場も気にせずに聞いたりもしていました(笑)。
僕はレイアウトやアニメーションについて教え、スタッフたちからはソフトについて教えてもらうという感じで、お互いに知識が得られて良い循環だったのかなと思います。先ほども触れましたが、今回は名古屋にスタッフがまとまっていたことでお互いに相談し合う機会も多く、最初こそチーム全体としても会話が少なかったのですが、最後の方は集まって趣味の話をしたりと、1st seasonの制作を通じてチームの結束力の高まりを感じました。
▷チュートリアル研修を終えた4月末からは新人さんが2名配属になったかと思います。既に放送も始まっているタイミングでしたがいかがでしたか?
結構後半の方でして、「どうしようかな」と僕もちょっと迷ってしまいました(笑)。
ただ、びっくりしたのは最初からカットを任せても結構できていたんですよね。「これならそのままでもいけるな」というレベルのものも出してきてくれて、教えるのはすごく楽でした。
▷新人さんにはテクニカルな部分を避けるような割り振りをすると思いますが、後半となるとそういったカットの配分は難しかったのではないですか?
そうですね。それでも少し残っていたので、最初は止めやあまり動きの多くないカットをお願いして、最終的には竜宮乙姫が激しくカメラに向かっていくカットなど見せ場もやってもらいました。
▷新人さんの今後の活躍にも期待ですね!
2nd seasonからもバリバリとやってもらおうかなと(笑)。
▷これまでを振り返ってアニメーター、チーフ、ディレクター、それぞれの役職の立ち回りや任される仕事の違いを聞かせてください。
アニメーターの時は自分を成長させていくという意識で、ただがむしゃらに自分に振られたカットをこなしていきました。
チーフになると、自分の成長だけでなく部下の成長も促していかなくてはならないので、そういった部分で圧し掛かるものはあったなと思います。
ディレクターになると、チーム全体を見る必要があるので単純に成長を見守る部下が増えたというのもありますし、加えて作品全体に携わることになるのでスケジュール通り作業を終わらせるために動く必要があり、責任の範囲が広がったなという印象はありますね。
▷そんな経験を積んできた竹内さんの中で、誰にも負けない強みは何ですか?
指の演技ですかね(笑)!
アイドルものから始まり、武士が刀を握る時、日常の芝居など、やっているうちにすごく楽しいと感じるようになりました。過去に上司から「指や手は第2の表情だよ」と教えていただいたことがあり、指だけはこだわろうと意識しています。それを今後部下にもどんどん伝えていきたいなと思いますね。
▷確かに、立ち絵でも手が拳になっているか、開いているか、ダラっとしているかでキャラクターの表情まで見えてきますよね。
ただ立っているだけでも、指をデフォルトで置いているなと思ったら「指ってぶら下がってる時はこうなるよね!」とか、「重力のことも考えよう!」と伝えたりしますね。細かい部分なので疎かにしがちなのですが、指1つでカットの印象が変わるなと感じるのでしっかりと見ています。
▷他にもディレクター目線でもっとここを伸ばしたい、将来を見据えてもっとこうなりたいという思いはありますか?
そのジャンルに特化したディレクターになりたいなと思っています。例えば、今回の『戦隊大失格』のようなヒーローものを得意とするディレクターというのは社内でも新しいポジションなのではないかなと。「このジャンルなら竹内に任せよう!」と言っていただけるような、得意なジャンルをどんどん増やしていけたらいいなと思っています。
▷1st seasonの最後に2nd seasonの発表もありましたが、意気込みを聞かせてください。
個人的に1番好きなグリーンキーパーが活躍するシーズンなのですごく楽しみにしています(笑)。
大きな敵と戦う場面があると思うので、そこに向けて頑張っていきたいなと。ファンの皆さんが満足できるものをお届けしたいなと思います。
▷ご自身は今後、ディレクターからさらに監督を目指されたりはしないんですか?
いやぁ、どうでしょうね!本音を言うと監督よりディレクターの方がいいなぁ(笑)。CGに最も興味を持ってやってきたので、監督になった時に他の工程にも同じくらいの思いをぶつけられるかなという気持ちはあります。
▷美術・撮影・音響など全ての工程に指示を出していかないといけないですもんね。名古屋スタジオの今後の展望はいかがですか?
今年3月のスタジオ統合で戦力もまとまったので、今後はディレクターやチーフクラスの人材を育成しつつ、名古屋で制作できるラインを増やしていきたいです。ゆくゆくは名古屋で元請け作品をやることが夢ですね!
▷ありがとうございました!